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東京高等裁判所 昭和53年(ム)58号 判決 1980年11月26日

再審原告 三浦徳壽

右訴訟代理人弁護士 佐久間和

再審被告 久木留広

<ほか一三名>

主文

再審原告の訴え(新たに追加した請求を含む。)をいずれも却下する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実及び理由

一  再審請求の趣旨及び不服の理由

本件再審請求の趣旨は、「一、原判決を取り消す。二、1(一)再審被告久木留広・再審原告間において右当事者間の昭和二九年二月二〇日金額二〇〇万円弁済期同年三月二一日利息年一割の約定による金銭消費貸借及び右債務につき別紙第一物件目録記載の土地を対象とする抵当権設定契約がいずれも無効であることを確認する(新たに追加した請求)。(二)再審被告久木留広は再審原告に対し右土地につき(イ)東京法務局府中出張所昭和二九年二月二五日受付第一五七〇号をもってされた抵当権設定登記、(ロ)同出張所同日受付第一五七一号をもってされた代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記、(ハ)同出張所昭和二九年三月二二日受付第二五五五号をもってされた代物弁済による所有権取得登記の各抹消登記手続をせよ(右(イ)は新たに追加した請求)。2再審被告斉藤重隆は再審原告に対し右土地につき同出張所昭和二九年三月三〇日受付第二八六九号をもってされた売買による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。3再審被告亡玉川順吉相続財産は再審原告に対し右土地につき同出張所昭和二九年四月八日受付第三二三一号をもってされた売買による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。4再審被告東孝一は再審原告に対し(一)右土地につき同出張所昭和二九年六月二八日受付第六〇八五号をもってされた売買による所有権取得登記の抹消登記手続、(二)別紙第二物件目録記載(1)の土地につき(イ)同出張所昭和三〇年八月八日受付表題部九番の登記の抹消登記手続、(ロ)同出張所同日受付表題部八番の抹消された登記の回復登記手続、(ハ)右表題部八番の登記の抹消登記手続、(ニ)同出張所昭和二八年一二月三日受付表題部七番の抹消された登記の回復登記手続、(三)右土地に対する表題部八番の合併登記が抹消されるのに伴い北多摩郡国分寺町国分寺本多新田字なだれ上四九五番の三宅地一四五・四五平方メートル(四四坪)につき(イ)同出張所昭和三〇年八月八日受付表題部七番の抹消された登記の回復登記手続、(ロ)右表題部七番の登記の抹消登記手続、(ハ)同出張所同日受付表題部六番の合併のため抹消された登記の回復登記手続、(ニ)右表題部六番の登記の抹消登記手続、(ホ)同出張所同年三月二三日受付表題部五番の抹消された登記の回復登記手続、(ヘ)右表題部五番の登記の抹消登記手続、(ト)明治四一年五月二〇日受付表題部四番の抹消された登記の回復登記手続、(四)同目録記載(2)ないし(5)の土地につき同出張所昭和三〇年八月八日受付表題部一番の登記の抹消登記手続、(五)同目録記載(6)の土地につき(イ)同出張所同日受付表題部八番の登記の抹消登記手続、(ロ)同出張所昭和三〇年三月二三日受付表題部七番の抹消された登記の回復登記手続、(ハ)右表題部七番の登記の抹消登記手続、(ニ)同出張所昭和二八年一二月三日受付表題部六番の抹消された登記の回復登記手続、(六)同目録記載(7)ないし(25)の土地につき同出張所昭和三〇年八月八日受付表題部一番の登記の抹消登記手続をそれぞれせよ。5再審被告立川金融株式会社は再審原告に対し別紙第一物件目録記載の土地につき同出張所昭和三〇年二月二一日受付第一〇三〇号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。6再審被告村主はな、同村主重信、同高村ツエは再審原告に対し別紙第二物件目録記載の土地につき(一)同出張所昭和三一年一二月一一日受付第一二八七五号をもってされた賃借権設定登記、(二)同出張所同日受付第一二八七六号をもってされた地上権設定登記の各抹消登記手続をせよ。7再審被告蜂屋マサ、同越川満子は再審原告に対し別紙第二物件目録記載(6)ないし(25)の土地につき同出張所昭和三〇年八月一七日受付第五六八三号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。8再審被告畑野年は再審原告に対し別紙第二物件目録記載(9)の土地につき同出張所昭和三二年六月一一日受付第六七〇三号をもってされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。9再審被告森田清重は再審原告に対し別紙第二物件目録記載(13)及び(14)の土地につき同出張所昭和三二年七月一九日受付第八二九二号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。10再審被告高石正史は再審原告に対し別紙第二物件目録記載(20)の土地につき同出張所昭和三二年六月一一日受付第六七〇四号をもってされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。11(一)再審被告渥美タキ・再審原告間において別紙第二物件目録記載(9)及び(20)の土地の所有権が再審原告に属することを確認する。(二)再審被告渥美タキは再審原告に対し(イ)右(9)の土地につき同出張所昭和三六年五月一六日受付第一二三五三号をもってされた所有権移転登記、(ロ)右(20)の土地につき同出張所同日受付第一二三五四号をもってされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。三、再審及び本案訴訟の訴訟費用は再審被告らの負担とする。」との判決を求めるというのであり、不服の理由の要旨は、次のとおりである。

1  再審原告を控訴人・再審被告久木留広ほか一〇名を被控訴人又は引受参加人とする東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第二二六四号所有権取得登記等抹消請求控訴事件(以下「前控訴審」という。)につき同裁判所は昭和三九年四月二七日控訴棄却(控訴審における新たな請求棄却を含む。)の判決を言い渡し、これに対し再審原告から上告申立てをし最高裁判所昭和三九年(オ)第一一五一号上告事件として係属したが、同裁判所第一小法廷は昭和四二年一月一九日上告棄却の判決を言い渡したので、前控訴審判決は同日確定した。

2  前控訴審判決は、その第一、二審証人林壬子郎、同玉川順吉、第二審証人藤岡要治の各証言及び宣誓したその第一、二審における被控訴本人久木留広の供述を証拠としているが、右各証言及び供述はいずれも虚偽の陳述であるから、同判決には、民訴法四二〇条一項七号の再審事由がある。すなわち、真実は、再審原告においてかねて訴外林壬子郎に対し別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の登記済証及び再審原告の白紙委任状、印鑑証明書等の書類を預けていたところ、同人は、再審原告及びその代理人下釜武夫の承諾を得ることなく右書類を玉川順吉に交付し、更に右下釜から再審原告の新たな白紙委任状、印鑑証明書を取り寄せた上、右同様再審原告及び下釜の承諾を得ないでこれを右玉川に交付したものであり、これらの書類を冒用してされたのが再審被告久木留のための所有権取得登記等であって、その登記原因もおよそ表見代理の成立する余地のないものである。にもかかわらず、前控訴審において、再審被告久木留は、被控訴人として、再審原告や右下釜が右書類を直接玉川に交付した旨の真実に反する主張をした上、登記原因の真正なこと又は表見代理の成立を主張し、同再審被告及び前記証人三名は、共謀の上(又は同再審被告の偽証教唆の下に)、同再審被告の右主張に照応する虚偽の陳述をしたものである。そして、前控訴審裁判所は、これら虚偽の陳述を信用し、これを証拠として誤った事実認定をした上、同再審被告主張の表見代理の成立を認めた。

ところが、その後本件土地の転得者として再審被告東孝一が再審原告に対し提起した別件訴訟建物収去土地明渡請求事件において、前控訴審判決の証拠となった右証人三名の証言及び本人の供述は、いずれも虚偽の陳述であることが判明した。というのは、右別件訴訟の第一審判決は、本件土地の登記済証等の書類は林が再審原告にも下釜にも無断で玉川に交付し、また所有権取得の本登記に用いられた再審原告の白紙委任状等も林が同様玉川に交付したものと認定し、本件前控訴審判決とは全く反対の事実認定の下に、登記原因を無効と判断して昭和四八年八月七日右再審被告東の請求を棄却する旨の判決を言い渡し、その控訴審である東京高等裁判所も右同様の認定の下に昭和五一年七月二〇日同再審被告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、これに対し同再審被告から上告申立てをしたが、最高裁判所第二小法廷は昭和五二年四月一五日上告棄却の判決を言い渡し、ここに別件訴訟判決が確定したからである。この別件訴訟においては前記証人三名の証人調書及び再審被告久木留の本人調書が甲号証ないし乙号証として提出されたが、その証言及び供述内容につき、別件訴訟控訴審判決は、まず、林証人が、その原審における証人尋問(二回)において登記済証等の書類が玉川に渡った経緯に関する従前の証言(証人調書の内容)を翻したこと、しかるにその控訴審における証人尋問においては再び元に復したことを指摘して、「本件の中心をなす重要な事項につきかくも変転する林証言のいずれを採り、いずれを排斥すべきであろうか。」と前置きした上、「以上検討したところをあわせ考えると、林の前訴訟における証言及び本件の当審における証言は採用し難く、むしろ本件の原審における第一、二回の証言こそことの真実を語っているものと判断するのが相当である。」と説示している。かくして、別件訴訟控訴審判決は、本件前控訴審判決における証人林の証言が虚偽の陳述であることを明らかにしたのであるが、更に、同じく証人玉川の証言(その証人調書の内容)についてもこれを採用し得ないものと説示している。このように、右両名の証言が虚偽である以上、これと同旨の前控訴審判決における証人藤岡の証言も被控訴本人(再審被告久木留)の供述も虚偽のものというべきであり、したがって、右証人三名及び被控訴本人は、いずれもそろって虚偽の陳述をしたことが明らかとなったのである。

3  ところで、これら虚偽の陳述は、再審被告久木留において、右三名の者と共謀の上(又は右三名の偽証を教唆して)前控訴審事件の被告・被控訴人として裁判所を欺罔して勝訴判決を得ようと企て、右三名をして偽証せしめ、かつ自らも当事者本人として虚偽の供述をしたものであり、その結果、同再審被告は、裁判所の認定判断を誤らせてその勝訴の前控訴審確定判決を取得したのである。したがって、本来であれば、これら証言・供述が虚偽であることを明らかにした別件訴訟の判決書等を証拠として、右の偽証教唆(共謀が認められない場合)、偽証、訴訟詐欺の犯行につき有罪の確定判決を得ることができたものであるが、右訴訟詐欺が既遂となった前控訴審判決確定時たる昭和四二年一月一九日から七年を経過した時点において、既に公訴時効が完成してしまったのである。なお、これら犯行は牽連犯の関係にあるから、公訴時効(七年)は、最終の訴訟詐欺が既遂となった前控訴審判決確定の時から起算されるべきものである。

右のとおりであって、証拠欠缺以外の理由により有罪の確定判決を得ることができないので、右公訴時効の完成した昭和四九年一月一八日から五年の除斥期間内に本件再審の訴えに及んだ次第である。また、三〇日の不変期間については、再審原告は、偽証教唆、偽証、訴訟詐欺の間に牽連犯の関係が成立することにつき、昭和五三年一二月一九日以後の時点において訴訟代理人を通して初めて知り、それから三〇日内に本件再審の訴えを提起したものである。

二  当裁判所の判断

1  まず、本件各再審の訴えのうち、前控訴審事件証人林壬子郎、同玉川順吉、同藤岡要治の各証言が虚偽の陳述であることを再審事由とする訴えの適否について考えるに、当裁判所が職権で調査したところによると、再審原告は、本件再審の訴え提起に先立ち、当庁昭和四二年(ム)第四号(その上告審・最高裁判所昭和四三年(オ)第二八三号)、当庁昭和四六年(ム)第一号(その上告審・最高裁判所昭和四九年(オ)第一五六号)、当庁昭和五二年(ム)第一〇号(その上告審・最高裁判所昭和五三年(オ)第六二七号)の各再審の訴えを提起したが、いずれも不適法として却下されたこと、そのうち最後の昭和五二年(ム)第一〇号事件(以下「前再審事件」という。)の訴えは、本件におけると同じく右証人三名の証言が虚偽の陳述であることを再審事由として同年五月一四日に提起されたものであるところ、これに対する判決は、五年の除斥期間経過後に提起された不適法な再審であることを理由としてその訴えを却下したものであり、これを不服とする再審原告の上告も昭和五三年一一月二〇日に棄却され、ここに前再審事件の却下判決が確定するに至ったこと、そして、右確定後の同年一二月二七日に本件再審の訴えが提起されたこと、以上の事実が右各再審事件及び本件の記録上明らかである。

ところで、再審の訴えを却下する判決はいわゆる訴訟判決に属し、訴訟判決もその判決で確定した訴訟要件欠缺については既判力を生ずるものであるところ、これを前再審事件の却下判決について見ると、その判決理由たる除斥期間経過の故に不適法であるという判断は、後訴裁判所を拘束する既判力を有するものと解すべきである。したがって、右判決確定後に提起された本件各再審の訴えのうち前再審事件と同じく前記証人三名の虚偽の陳述を再審事由とする訴えは、右判決の既判力に従い、これを不適法として却下するほかはない。もっとも、本件において再審原告の主張する除斥期間の起算日は昭和四九年一月一八日であり、これは右証人三名の偽証と牽連犯の関係にあるとする訴訟詐欺につき公訴時効の完成した日であるところ、前再審事件判決によれば、その認定した除斥期間の起算日は、証人林及び玉川につき昭和四二年一月一九日・同藤岡につき同年五月三日であり、この認定に当たっては訴訟詐欺との牽連犯の関係につき何ら触れるところがなく、したがって、最終の訴訟詐欺についての公訴時効完成とは無関係に除斥期間を起算していることが明らかである。このように、前再審事件判決が牽連犯の関係に触れていないところから、再審原告においては、右判決が確定した後でも、牽連犯の関係を新たに持ち出して右判決の認定よりも後の時点を除斥期間の起算日と主張することは、その既判力ある判断に抵触しないと理解しているもののごとくである。しかしながら、訴訟詐欺との牽連犯の関係を理由として除斥期間の起算日を後らせることは、前再審事件において当然主張してしかるべき事項であるから、本件再審事件における右主張は到底許すことができず、前再審事件判決の既判力が及ぶという前示判断は動かないものといわなければならない。

のみならず、再審原告においては三〇日の不変期間も経過しているものであって、この点からしても不適法な再審の訴えというべきである。すなわち、再審原告は、昭和四六年一月六日当庁受付の同年(ム)第一号事件再審訴状中において、再審被告久木留及び前控訴審事件証人林、同玉川、同藤岡が共謀の上虚偽の供述及び証言をし、裁判所を欺罔して同再審被告勝訴の前控訴審判決を取得し、これが確定した旨記載している(この点は、同事件記録上明らかである。)のであるから、そのころ既に偽証と訴訟詐欺という牽連犯の成立し得る事実関係自体は了知していたものと認められるところ、昭和四九年一月一八日には前控訴審判決確定後七年を経過し、右牽連犯における最終の訴訟詐欺につき公訴時効が完成することとなり、また、昭和五二年四月一五日には別件訴訟において再審原告勝訴の判決が確定し、再審被告久木留らの偽証、訴訟詐欺等が明らかとなったと言うのであるから、遅くともこの時点において、再審原告は、証拠欠缺以外の理由により有罪の確定判決を得ることのできないことを知ったものと認定するに十分である。もっとも、再審原告は、そのころ提起した前再審事件において、除斥期間の起算日として別件訴訟判決が確定した右昭和五二年四月一五日を主張したため、これが採用されず右再審の訴えも却下されたものであり(この点は、同事件記録上明らかである。)、また、本件において、偽証教唆、偽証、訴訟詐欺の間に牽連犯が成立するという法的評価は昭和五三年一二月一九日以後初めて知った旨主張するけれども、これらの点は、再審事由を知った時点に関する右の認定を左右するものではない。右のとおりであるところ、本件再審の訴えが提起されたのは同月二七日であり、このことは本件記録上明らかであるが、右認定の再審事由を知った時点から既に三〇日を経過した後のことであるから、本件再審の訴えは不適法たるを免れない。

2  次に、再審被告久木留広の当事者本人としての供述が虚偽であることを理由とする再審の訴えにつき検討するに、宣誓した当事者の虚偽の陳述に対する過料の制裁については、刑事事件における公訴時効のような制度もなく、起訴猶予処分のごときものも存しないのであるから、積極的に過料の裁判がされたというのでなければ民訴法四二〇条二項の要件が具備しないこととなるところ、その事実を認めることができないから、右再審の訴えは不適法とするほかはない。

もっとも、再審原告は、再審被告久木留が虚偽陳述を手段として目的を達した訴訟詐欺罪につき、別件訴訟判決の確定という確証があるにもかかわらずその公訴時効が完成したことを理由として、同再審被告に対する過料の制裁がなくても民訴法四二〇条二項の要件が具備している旨主張するもののごとくであり、かかる主張の当否は別としても、再審原告においては、遅くとも別件訴訟判決が確定した昭和五二年四月一五日には、証拠欠缺以外の理由により有罪の確定判決を得ることのできないことを知っていたものであり、このことは既に右1の末尾で説示したとおりである。そうすると、同所で示したのと同じ理由により、同再審被告の虚偽陳述を事由とする本件再審の訴えは、三〇日の不変期間経過後のものといわざるを得ず、この点からしても不適法たるを免れない。

3  以上によれば、本件各再審の訴えはいずれも不適法として却下すべきであり、したがって、再審原告において新たな請求を追加することも許されないからその請求に係る訴えも却下するほかなく、これらの欠缺は補正することができないので、民訴法二〇二条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 賀集唱 福井厚士)

<以下省略>

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